一番古い記憶

一番古い記憶というと、一歳か二歳くらいの頃のこと。夜眠る前の寝室の情景が浮かぶ。

僕は寝室で仰向けになっていた。隣では母親が眠っている。部屋には障子があり、薄白く灯っている外の街灯に、障子が照らされ、ぼんやりと光っている。どこか遠くから、ふくろうの鳴き声が聴こえてくる。あの声がふくろうだったかどうかは、はっきりと認識していたわけではなかった。でも、あれはふくろうだったんだと、今も不思議と思っている。

教員だった母が、児童数の少ない僻村の小学校に勤めていたことから、三歳になるまでの二年ほど、校舎の隣にあった教職員向けの平屋の家に両親と住んでいた。小学校の全校生徒は四十人くらいで、遊んだことがあって名前を知っている子も数人いたようだ。村は、山の中腹にあり、少し登っていくとゆずの木が生え、綺麗な山々の景色が広がっている。

村には、坂を下りていく手前に保育所も一つあった。ただ、村で幼い子供たちの姿を見たことはほとんどなかった。僕が、その周辺をあまり歩くことがなかったからか、休日や夕方以降に親の車の窓から見ることが多かったせいなのかもしれない。小学校と保育所以外、村に目立った建物はなく、畑があり、民家がぽつぽつとあった。買い物は、車でしばらく下った先にスーパーがあり、途中の坂道や店の外観、駐車場の光景がうっすらとよぎる。

ご近所さんとの付き合いも、それほどなかったように思う。唯一、両親が共働きだったこともあり、僕が毎日のように預けられていた、近所に住む母の知り合いの女性「たーたん」のことはよく覚えている。その家には、小学生の男の子がいた。その子が、「かあさん」と呼んでいるのを聞き間違えた僕は、その人のことを「たーたん」と呼んでいた。

たーたんのお迎えで、毎朝家に行った。家には、僕の視線の遥か上のほうに、一枚のペナントが飾ってあった。僕はペナントというものを知らなかったので、その見慣れない形をした飾り物が異様に映った。なんの絵柄だったかは覚えていないが、まるで異界の象徴のように、僕の知らない三角形が印象に残っている。

あるとき、一人でたーたんの家に行ったことがあった。このときの光景は、たぶん僕の記憶ではなく、母の記憶のうつしとして残っている。母が、ときおり懐かしげに、リュックサックを背負って一人で歩いていく幼い僕の後ろ姿の話をしたので、いつの間にか、その記憶が自分の記憶のようになってしまっているのだと思う。畦道のような場所を、歩いて少しずつ遠のいていき、しばらく行った先で、ゆっくりと振り返る、幼い頃の僕の後ろ姿が、まるで実際に見た光景のように浮かんでは消える。

父は、毎晩仕事で帰りが遅かった。遅かったと言っても、子供の寝る時間を思えば、今考えてみると、どれほど遅かったかは分からない。ただ、幼心に、母と二人だけの空間は、とても弱々しく、心細かったことは覚えている。今でも、ふいに生きていることに心細くなるときは、あの頃の夜の記憶が ── 暗闇の向こうの滲んだ街灯の灯りと、寂しげなふくろうの鳴き声が ── すっと蘇ってくる。